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ビジネスパートナーとしてのASEANを考える 【第5回】
なんちゃって日本企業/製品の認知度がさらに高まっている ~どちらが本物か、現地の人は知らない~
ビジネスパートナーとしてのASEANを考える 【第5回】
なんちゃって日本企業/製品の認知度がさらに高まっている ~どちらが本物か、現地の人は知らない~
2018年2月26日
数年前、中国で妙に目の大きいドラえもん、耳の小さいミッキーマウスといったニセモノ騒ぎが世間を騒がせました。以前に福建省の福州に出張した際に、“スナック 黒木 瞳”という看板を見たときには大笑いしてしまいました。浜崎あゆみ、福原 愛といった名前がすでに中国で本人に関係なく商標登録されているといったことも困ったものです。
ASEANでは中国ほどひどくはないものの、企業名や見た目は真似なくても、コンセプトをそのままいただくというビジネスにも出会う機会が増えてきました。ASEANでの例をご紹介しながら、日本企業として今後、どのようなグローバル・ビジネスを展開する際に注意すれば良いかを考えていきたいと思います。
ASEANでの実例
ASEANに進出する日本企業は益々増えてきました。これまでのトヨタ、味の素といった大手製造業だけでなく、様々な業種・業態、規模の企業が進出しています。タイのコンビニエンス・ストアではセブン・イレブンの独占市場からファミリーマート、ローソンの看板も数多く見かけるようになってきましたし、ダイソーや大戸屋、ペッパーランチ、ヤマト運輸等、ミャンマーでもロート製薬の目薬、久光製薬の湿布、ポカリスエット、カルピス等も簡単に入手できるようになってきました。
そのような中、タイローカル(トップは日本人のようですが)のFUJI Restaurantはタイだけでなく、ミャンマー、ラオスでも大変人気があります。値段は日本より少し安いぐらいですが、ローカルのお客様でごった返しています。私もよく利用しますが、日本人としてはびっくりするメニューもあったりします。ポークすき焼き(普通は牛肉ですよね)、サーモン鉄火丼(サーモンの刺身です)、サバ照り焼き丼(私はサバの丼を日本では見たことがありません)等、日本では見たことのないメニューもあります。タイ人に合わせてローカライズさせているともいえますが、ローカルの人はこれを、“ザ・日本食”として信じて食べているわけです。また、日本風焼き肉屋では、美味しい日本の焼き肉は全て神戸牛と勘違いしている方も多く、またタン塩というメニューにも関わらず、しょう油ダレがたくさんついていることもあります。すき焼きを頼むと、なぜかニコニコして、しゃぶしゃぶ用ゴマだれやモミジおろしをサービスしてくれます。日本企業であれば、食育的に正しい日本食を伝えようとするでしょうが、ローカルでは日本っぽければ、日本食になってしまうのでしょう。
日本食がローカライズされていくことは決して悪いことではありませんが、後発で本物が進出していくと、何が本物かわからなくなってしまうということもあります。タイでは牛野家という牛丼屋があります。ローカルの人に聞くと、吉野家より美味しいよという声が帰ってきたりします。
このような事例を見ると、日本企業が海外進出しようと準備を始めたら、すでに類似コンセプトのローカル企業に先回りされてしまっているということが多数あるということです。最近、タイのBTSという新交通システムの駅ナカでは、120THB(約360円)のJust Cutという床屋をよく見かけます。システムは日本の1,000円カットと一緒です。以前にQBハウスがタイに進出していましたが、これから同様のシステムで参入すると、場合によっては日本企業がローカルの真似をしたと言われかねませんし、価格の主導権はローカルになってしまいます。100均もダイソーが60THB(約180円)均一で営業していますが、最近はローカルの20THB均一ショップが出てきました。
ミャンマーやカンボジアではONE PIECEや“こち亀”といった日本のアニメーションは全て、中国のテレビ局から放映され、中国語の吹き替えが入っています。これでは中国のアニメーションと信じる人も多いと思います。中国の番組はチャンネル名と番組の中国名が必ず画面に表示されています。これも大変うまいアプローチと思います。これに対し、NHK Premiumは画面も放送も全て英語ですから、日本の局とわかりません(Japanという文字はありますが、中国局よりは明らかに小さい)。
日本企業はどうするべきか
このような状況において、日本企業はどうしていけば良いのでしょうか。ASEANはAEC: ASEAN Economic Community(ASEAN経済共同体)で知財保護に力を入れようとしています。今後は時間をかけて知財の必要性、重要性が認知されていくでしょう。しかし、まだまだ法整備、システム、意識の浸透には相当時間がかかると思われます。よって、日本企業は進出予定がある、または可能性のある国の特許、商標登録などを調査し、必要に応じて出願するといった手を早めに打っておいた方がよいと思います。最近では新興国にも多数日本の弁護士事務所や税理士、弁理士も進出しています。また、価格競争力、対応力の強化は必須ですので、ビジネス戦略の検討においては最重要項目となります。
新興国においては原材料調達、品質、ロジスティクス対応に苦慮する場面に多数遭遇します。育てていく、新たに立ち上げていく気概も必要と思いますし、日本製/Japan Premiumというプロモーションを積極的に仕掛ける必要もあります。
私がお手伝いしているミャンマーのローカル食品企業では、パッケージにJapan Technologyと表記してアピールしています。
ビジネスパートナーとしてのASEANを考える(全6回)
第1回:ASEAN 経済共同体を見据えた東南アジア向けビジネス革新
第2回:AECがタイ/ASEANの食品業界に与えるインパクト
第3回:ミャンマーの現在
第4回:イスラムビジネスを考える ~ハラルを知る~
第5回:なんちゃって日本企業/製品の認知度がさらに高まっている