TOP > ASEAN便り >  ビジネスパートナーとしてのASEANを考える 【第1回】
ASEAN 経済共同体を見据えた東南アジア向けビジネス革新

ビジネスパートナーとしてのASEANを考える 【第1回】
ASEAN 経済共同体を見据えた東南アジア向けビジネス革新

日本市場の飽和、高齢化、アジア市場の拡大、低賃金ワーカーの活用といった環境を背景に、中国・東南アジア市場に軸足を置く企業が増えてきました。また、チャイナ・プラス・ワン(中国一国依存からの回避)、AEC(東南アジア経済共同体)、注目されるアジア新・新興国=CLM(V):カンボジア・ラオス・ミャンマー(ベトナム)=などの動向を踏まえた、今後のアジア戦略の検討も必要です。
筆者は現在、東南アジアにて、日系企業だけでなく、現地企業のコンサルティングを行い、毎月、東南アジアに足繁く通っております。そこで、これから数回にわたり、ASEAN(東南アジア)の生の情報をお伝えしていこうと思います。

第一回は、ASEANとAEC(ASEAN経済共同体)を見据えた、東南アジア向けビジネス革新について考えます。

ASEAN とは

ASEANとは東南アジア諸国連合(Association of South‐East Asian Nations)のことです。
東南アジア10か国の経済・社会・政治・安全保障・文化に関する地域協力機構であり、本部所在地はインドネシアのジャカルタにあります。
ASEANはインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ブルネイ・ダルサラーム、ベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジアの10カ国で構成されています。

ASEANは主にインドシナ半島、インドネシアのジャワ島、スマトラ島、フィリピンのルソン島、ミンダナオ島、インドネシア、マレーシア、ブルネイがあるカリマンタン島といった大きな島々とその他小さな島々で大きく構成されます。北はミャンマーの北緯28度(奄美諸島と同緯度)からインドネシアの南緯8度、東は東経124度(宮古島あたり)から西は東経92度のエリアの中にASEANはあります。気候的にはほぼ亜熱帯に属し、夏期と雨期が有り、年間を通して非常に雨量が多い地域といえます。

ASEANは平地が非常に多い国と険しい山岳地帯を持った国に大別できます。比較的平地が多い国はタイ、カンボジア、マレーシア、シンガポール、ベトナム、険しい山岳地帯を持つ国はミャンマー、ラオス、フィリピンです。平地が多い国は洪水のリスクが高いといえます。2011年のタイ、2015年のミャンマーの洪水は記憶に新しいと思います。平地が多ければ農作物、特にお米の生産に非常に適しています。しかし、地盤が弱いというデメリットがあります。地震が起きれば被害は甚大ですし、雨期は建設工事が難しいということもいえます。山岳地帯が多い国は国境を越えた物流が非常にネックになります。タイとミャンマーの物流ができる国境は数カ所しかないということは、今後のASEANハイウェイ構築においても大きな課題となっています。

また、インドシナ半島にはメコン川、チャオプラヤ川という大きな河川が有り、タイ、カンボジアでは一つの物流の要となっています。しかし、メコン川上流のラオスにとっては水力発電の元で有り、発電のために貯水するため、ベトナム、カンボジアでは季節によって水量が不足するという問題も生じ、国家間のトラブルの元にもなっています。
東南アジア周辺は比較的遠浅な海が多く、かつインドシナ半島はある意味、メコン川、チャオプラヤ川の三角州ともいえますから、特に河口付近は高低差が少ないため、港は掘削しないと大きな船が接岸できないという課題があります。タイ、カンボジアのデルタ地帯は海抜2~3mの軟弱な粘土の土壌です。海抜が低いことは通信ネットワークの肝である光ファイバーケーブルも引きにくいということにもつながります。タイのレムチャバン港、ミャンマーのティラワ港、ダウェー港等はこのような悩みを抱えています。

ASEAN10カ国の人口構成は様々です。最も人口の多いのはインドネシアであり、2億 4,990万人(2013年)で世界第4位です。次いでフィリピン、ベトナム、タイと続きます。最も人口が少ないのはブルネイで41.78万人(2013年)、次いでシンガポールの539.9万人(2013年)です。このようにASEAN各国の人口には大きな差があります。
また、ASEAN各国の特徴は都市部に人口が集中しているということです。ジャカルタには2,400万人が住んでいます。これはインドネシアの人口の約1割です。バンコクには870万人住んでいます。タイの人口が6,701万人(2013年)ですから約13%になります。東京には日本の人口の約11%、ニューヨークはアメリカの人口の3%ですから、いかにジャカルタやバンコクに人口が集中しているかということがいえるかと思います。
各国の人口ピラミッドと平均年齢を見ると、様々な推測ができます。シンガポール、ブルネイ、タイは今後、日本と同様の少子高齢化の道をたどることが想像できます。よって、日本のシニア向けの商品・サービスを適用できる余地があるかもしれません。ベトナム、ミャンマーはある特定の年齢層が不足しているため、採用時に気をつける必要がありそうです。フィリピン、インドネシアは今後も人口の伸びが期待できそうです。

AEC:ASEAN Economic Communityとは

ASEANはEU(ヨーロッパ連合)をお手本としながら、地域全体での経済活性化を図るためにAEC(ASEAN Economic Community)を策定しています。AECは2015年12月31日に発効された、関税、投資、人の流れを自由化する計画です。域内関税を撤廃することを目指していますが、すでに現加盟国6ヵ国間では、ほぼすべての貿易で関税が0~5%に引き下げられています。人の流れについても、加盟国の観光ビザが廃止され、看護師などの職業資格を国家間で相互承認することが決まっています。ちなみに、AECは、ASEAN Communityの3つの柱の中のひとつに位置づけられています。(下図)

AECについては、「ビジネス・チャンス」「ビジネス・リスク」の両面から捉えるべきです。
チャンスとしては、経済レベルの向上に伴う消費の拡大です。消費者マーケティング、ニーズ対応型商品開発、生産性向上と品質向上、人材育成といったニーズが発生すると思われます。リスクとしては、賃金の低い周辺国からの人材の流入、非関税による域内競争の激化などを想定しておくべきです。

AECにおけるアクション・アイテムは主に、Blue PrintとMaster plan of Connectivityに書かれています。Blue Printは大きくA・B・C・Dの4章に分かれています。
A章では、“Single Market and Production Base:市場・製造のベースを1つにする”をテーマに、計画的関税撤廃、投資の仕組み、教育体制、各国の得意な経済12分野について、B章では、“Competitive Economic Region:競争力のある経済圏へ”をテーマに、競争力強化の考え方、消費者保護・知的財産保護の考え方、インフラ整備について、C章では、“Equitable Economic Development:公平な経済発展”、D章では、“Integration into the Global Economy:国際経済との統合”について、それぞれロードマップ形式で書かれています。

現在、ASEANではさまざまな道路整備が計画、構築中です(下図)。
南部経済回廊は、ベトナムのホーチミンを起点に、カンボジアのプノンペン、タイのバンコクを通り、ミャンマーのダウェーに抜ける道です。この道ができればこれまで、ベトナムからシンガポール、マラッカ海峡を通って船でしかインド洋へ流通できなかった物資が、自動車で輸送できます。ASEANとインドの貿易が活発化し、ミャンマーの漁業資源が内陸に届くでしょう。つまり、ASEANのロジスティクス状況および貿易は劇的な変革が見込まれます。

東南アジア/ASEANの今後の動向

東南アジア/ASEANはGDP、人口、面積、宗教、民族などが多様な地域ですから、産業も含め、ひとくくりでは考えられません。最近は人件費の高騰もあってワーカーの確保が難しい状況です。
カンボジアはワーカーの識字率が低いという特徴があります。また、これからはミャンマーといわれていますが、ローカル人材を育成しても離職率が高い、宗教問題や民族問題が心配、といった課題もあげられています。今後は、AEC、CLM(V)、タイ・プラス・ワン、国を越えたサプライチェーン、日本人とローカル人材のグローバル人材開発、中長期戦略とアライアンス、アウトソースの効果的推進にも着目して戦略を練る必要があるでしょう。

これからのASEAN戦略

東南アジアを攻めるためには、まず国を越えて事業ユニットに基づく資源配分戦略の最適化を考える必要があります。そのうえで、製品/サービスの最適化を計画し、顧客に密着して掌握し、価値提供を明確にして、プロアクティブなビジネスモデルを構築する必要があります。
これまでの低賃金をベースにした戦略ではなく、域内の効果的な拠点配置をベースにした価値化、ローカル向け商品を充実させるためのローカライズR&Dの設置、地域全域を想定したバリューチェーン構築といった戦略をとるには、現地に密着したマーケティングが必要です。戦略構築を行うにあたっては、ASEAN各国の文化、民族、立地、人口分布等はもちろん、業界・顧客ニーズの収集、競合の戦略動向予測、自社のリソースと競争力を踏まえ、市場のチャンス/リスク評価とターゲット市場の見極め、めざすサービス形態を整理し、革新への取組みを継続することが必要です。

ビジネスパートナーとしてのASEANを考える(全6回)
icon-bookmark 第1回:ASEAN 経済共同体を見据えた東南アジア向けビジネス革新
icon-bookmark 第2回:AECがタイ/ASEANの食品業界に与えるインパクト
icon-bookmark 第3回:ミャンマーの現在
icon-bookmark 第4回:イスラムビジネスを考える ~ハラルを知る~
icon-bookmark 第5回:なんちゃって日本企業/製品の認知度がさらに高まっている