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イスラムビジネスを考える ~ハラルを知る~

ビジネスパートナーとしてのASEANを考える 【第4回】
イスラムビジネスを考える ~ハラルを知る~

世界一信仰者が多い宗教はキリスト教であり、現在20億人といわれています。しかし、先進国の人口が減り、新興国の人口が増えている今日、現在の信仰者数(ムスリム)が16億人といわれるイスラム教は、2050年には信仰者数がキリスト教と肩を並べるといわれています。このような動向を踏まえると、われわれがグローバルビジネスを考える際、ムスリム向けのビジネスを考えることは当然といえます。

しかし、イスラム教といっても日本の仏教と同じく、さまざまな宗派があります。仏教徒中心の日本人がその詳細を知ることはたいへん難しいのですが、イスラム教徒(ムスリム)に共通した考え方を知り、そこにビジネスチャンスを見つけていくことが必要なのはいうまでもありません。宗派だけでなく、国や地域によっても考え方が異なるといわれています。

ハラムにならないことを保証するハラル認証

実はイスラムの中でもそこに目を付けたのがマレーシア政府主導で始まったハラル認証です。

ハラル(Halal)とは、シャリア法(イスラムの教義に基づく法令)により許されるもの、または行為であり、神が創造したもののことです。逆にハラム(Haram)とは、シャリア法に基づき禁止されるもの、行為であり、ハラムにはナジス(不浄)とされるものを含みます。ナジスは、程度により3種類に分けられますが、食品ではその程度によらず、含まないことが求められます。

このハラルにあたるものを原材料製造から入手、加工、顧客への提供という全プロセスにおいてハラムにならないように対策してあることを認証し、保証するというのがハラル認証です。

現状はさまざまな国でハラル認証制度が構築されつつありますが、マレーシアの認証がもっとも厳しいといわれています。このためマレーシアの認証をクリアすれば、どの国でもムスリム向けビジネスはしやすくなるといわれています。よって、食品メーカーではマレーシアにハラル対応研究所を置き、そこでハラル対応商品を開発することで、イスラムのどの国にも対応出来る商品開発を行う企業も出てきました。

ハラム(不浄なもの)の例として、豚、血液、屑畜、酒類があげられます。つまり、食品その他に携わるビジネスにおいて、これらが混入(コンタミ)しない環境を構築する必要があります。工場であれば、豚肉工場の敷地を分ける、建屋・製造ラインを分ける、レストランでは厨房を分ける、包丁・まな板を分けるといったことも求められます。

豚を使ってはいけないというと食品だけをイメージしがちですが、実はわれわれの生活のさまざまなところに豚由来成分が原材料になっている製品があります。ゼラチン、ソーセージ、薬のカプセルはもちろん、われわれが飲む薬にも豚由来成分が入っていることがあります。豚の小腸からつくられるヘパリン、低分子ヘパリン、豚のすい臓からつくられるトリプシン、豚の胃からつくられるペプシン、豚の肺からつくられるトロンボプラスチンなどなど…。

アルコールも同様です。飲料用の酒はもちろん、消毒用アルコール、しょう油などにもアルコールが入っています。

ここでわれわれが考えなければならないことは、イスラム関連の国に出荷する製品とイスラムをメインの宗教としない日本でのインバウンド顧客用のハラル対応レベルを同等とすべきかということです。イスラムを主とするマーケット向けは厳格な管理をするべきですが、日本におけるインバウンド顧客向けの場合は、「当社はここまで管理しています」ということを明確に表示、識別し、判断をお客さまに委ねるのがよいと思われます。したがって、きちんとした情報と管理レベルを表示することが求められます。敬虔なムスリムの方と“ある程度の方”では考え方が違いますから、自社のサービスを受け入れるかどうかは顧客の判断に委ねる方が得策です。

ハラルの根本を理解する

さて、なぜ豚肉や酒がNGなのかは、なかなかわれわれ日本人には理解しにくいことです。以前、ムスリムの方に、「豚肉はウィルスが怖いので生では食べませんよね?」「お酒は飲み過ぎると問題がありますよね?」といわれたことがあります。そこから考えると、あまりに無理なことをいっていることではないと私も感じました。そのような観点で理解してみる、ムスリムの方の立場でモノを考えてみる――これがビジネスチャンスに結びつくのかもしれません。

ハラルの対象商品の拡大とビジネスチャンス

最近は、ハラルの対象商品が拡大していますし、ハラル対応のレストランも増えてきました。 ポテトチップスといったスナック類も豚起因の揚げ油を使っていないということでハラル認証を受けた商品をシンガポールやタイでも見かけるようになってきました。面白いものではマッサージに使用するオイルにもハラル認証マーク付きの商品が出てきました。

タイのスワンナブーム空港でもハラル対応ショップ、プレイヤーズルームの利用者も増えてきたように感じます。関西空港の蕎麦専門店のそじ坊でもハラル対応を売り物にしています。

今後、ますます拡大するムスリムの方達向けの商品開発にもぜひ、目を向けていきたいものです。その際に気をつけないといけないのは、ムスリム信仰メンバーを必ず開発メンバーに入れることです。信仰していないメンバーだけでは顧客の気持ちや志向は決してわかりません。ただし、ムスリムの方が気づかない潜在ニーズを見つけるのは我々日本人の役目であることはいうまでもありません。

ビジネスパートナーとしてのASEANを考える(全6回)
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